白い烏と黒い鴎

 ある所に白い烏が住んでいました。白い烏は、自分の白い色を大変に気にしていました。他の烏達が真っ黒なのに、自分だけ白い色をしていたからでした。烏達が集まると、白い烏は目だちました。白い色の烏の周りでは他の烏達がこそこそと悪口を言いました。

「あいつ、烏か?あんな色をしやがって。」

「あの色は何ともかっこわるいや。」

「あいつがいると何か悪いことでもおきやしないかと心配になるぜ。あいつを追いだしてしまおうか。」

などの言葉が聞こえてきました。そこで白い烏は、いつも隅の方で小さくなっていました。

 ある日、白い烏が木の枝に止まって、一人でポツンとしていると、意地悪な烏が近くにやってきて、白い烏に向かって言いました。

「おい、おまえ。羽根が黒くなる方法を教えてやろうか?。」

「え、本当?どうやって、どうしたら羽根が黒くなれる?」

「それはな、あそこに田圃が見えるだろう。あの田圃に入って体中に泥を塗ればいいのさ。そうすりゃあ、おまえは黒い烏になれるさ。」

 白い烏は嬉しくなりました。なりたい、なりたいと思っていた黒い烏になれる方法を教えて貰ったからでした。そこで白い烏は意地悪な烏に何度もお礼を言うと、田圃に降りて体中に泥を塗り付けました。白い羽根に黒い泥が着いて体全体が黒くなりました。その様子を見ていた意地悪な烏は、あかんべーをしてどこかへ飛んで行ってしまいました。

 体中に泥を塗ってうれしくなった烏は、自慢げに大空に向かって飛び上がりました。

「見て、見て。僕、こんなに立派な烏になったよ。もう、これで他の烏達とおんなじだ。これでみんなの仲間に入れるよ。」

と大声で叫びました。すると近くを飛んでいた他の鳥達が不思議そうな顔をして、泥をつけた烏を眺めました。泥を塗った烏は

「僕が黒い、立派な烏になったから、みんなびっくりして、僕のこと、見ているんだな。」と考えながら、他の烏達がたむろっている所へ飛んで行きました。

 他の烏達は怪訝な顔をして、この泥を塗った烏を見ていました。烏達はこの泥を塗った烏が誰だかわかりませんでした。泥を塗った烏は胸を張って言いました。

「僕はもと白い烏だった烏だよ。ほら、こんなに真っ黒な立派な烏に変わったよ。」

と言ったとたん、他の烏達は大声を上げて、腹をかかえて笑い転けました。

「アホー、アホー、アホー。」

泥を塗った烏は他の烏達が笑う理由がわかりませんでした。他の烏達が笑い終わるまで、ポカーンとしていました。

「どうして笑うのさ。」

笑いが納まってきたとき、泥を塗った烏は言いました。するとまた大きな笑いが起こりました。

「アホー、アホー、アホー。」

 一匹の烏が、おかしくてたまらないと言いながら、泥をぬった烏に近づいてきて言いました。

「おめえなあ、体に泥をぬっただけだろう。おめえ、まるでお化けでえ。おめえの羽根と俺の羽根を比べてみねえ。全然違うだろう。おめえのは汚れた汚い黒でえ。俺達のは真っ黒な綺麗なくろでえ。早く川へ行って体を洗って来ねえ。あほんたら!」

 泥をぬった烏は、笑われた理由が分かりました。恥ずかしくて、恥ずかしくて、死にたい気持ちになりました。泥をぬった烏は大急ぎで川へ飛んで行くと、体中を良く洗いました。川の水で泥がどんどん落ちて流れて行くと、また元の真っ白な烏に戻りました。

 白に戻った羽根を見て、烏は涙をポロポロ流して泣きました。自分の運命を嘆きました。辛くて悲しくて、白い烏はもう烏の村に帰ろうとは思いませんでした。白い烏は空高く舞い上がると海をめがけて飛んで行きました。海辺に着くと、大きな木の枝に止まって、これからどうしようかと考えていました。

 白い烏は疲れから、木の枝に止まってうとうとっとしました。

「君、どうしたんだい。ずいぶん悲しそうな顔をしているね。何かあったんかい?」

と言う声がしたので目をさましました。側に真っ黒な鳥が止まって、白い烏の顔をのぞき込んでいました。仲間の烏とはどことなく違う鳥でした。

「君、真っ黒だけど、烏ではないみたいね。」

びっくりして白い烏が言いました。

「君こそ、真っ白だけど、鴎ではないみたいね。」

「鴎?僕は烏さ。こんな色をしているけれど烏なんだ。君は黒いけれど烏じゃあないね。」

「うん、そうなんだ。僕は鴎なんだ。真っ黒だけど鴎なんだよ。」

「そうなんか。僕はね、この真っ白な羽根のおかげで、みんなから仲間はずれにされているし、いじめられるし。いいことないのさ。

黒い羽根にないたいけれど、どうにもならないで、逃げだしてきたんだ。」

「へー、やっぱりね。だからここで沈み込んでいたのか。実は僕も、この真っ黒な羽根のせいで、他の鴎の仲間から、仲間はずれにされているし、みんなに見つかるといじめられて、とても辛くて逃げだしているんだ。」

「鴨って、みんな真っ白なんかい?僕みたいに白い鳥なんかい?」

「そうなんだよ。鴎は真っ白な鳥だから、僕は鴎じゃあないって、みんなが僕をいじめるんだ。僕の兄さんや姉さんまで、他の鴎の仲間に加わって、僕のこといじめるんさ。それなのに父さも母さんも、僕がいじめられるの、見て見ない振りなんだよ。だから僕は悲しくて、悲しくて。みんなから逃げだして、いつも一人ぼっちなんさ。」

「へー、そうなんかい。それじゃあ、僕とおんなじだ。僕一人が不幸で辛い思いをしてると思っていたが、君もそうなのかい。それじゃあ僕たち友達にならないかい。そうすりゃあ、僕たち一人ぼっちでなくなるから。」

「うん、そうしよう。僕たち友達になろう。友達になって、ここで暮そうや。ついでに、僕たちの羽根を交換しないかい?君の真っ白な羽根を僕が貰って白い鴎になる。君には僕の真っ黒な羽根をあげるから、そうしたら、君は真っ黒な烏になれる。僕も君も普通の鴎と烏になれるじゃあないか。」

「そりゃあいい考えだ。よし、そうしよう、そうしよう。」

そこで真っ白な烏と真っ黒な鴎は互いの羽根を交換して、真っ黒な烏と真っ白な鴎になりました。

「これで僕も君も、やっと普通になったね。」真っ黒になった烏が言いました。

「うん、僕たちは普通になったけど、僕たちは二人で、ここで仲良く暮らそうね。あんな意地悪な仲間の所には帰りたくないもんね。」

真っ白になった鴎が言いました。そして二羽の烏と鴎は仲良く暮らしました。 

 

表紙へ