鶯の子供   須藤 透留
 
 山の中、森の奥深くにある一本の大木の一枝に、若い鶯の夫婦が家を作りました。季節は春、暖かくて気持ちがよい太陽の光を浴びて、結婚したばかりの鶯の夫婦は、協力して一生懸命働きました。家の出来映えは上出来でした。鶯の夫婦は満足していました。妻は早速卵を4っつ生んで、夫婦で交代で卵の面倒を見ていきました。
 木々の緑がだんだん深くなった頃、一つの卵から赤ちゃんが産まれました。鶯の夫婦は大喜びでした。自分たちの幸福浸っていましたが、未だ三つの卵が残っています。それに生まれたばかりの子供は、既に腹を空かして食べ物を欲しがっています。鶯の夫婦は喜びもそこそこに、食べ物探しに出かけました。
 鶯の夫婦が家に戻ってみるとどうでしょう。家の中には生まれたばかりの子供がいるだけで、残りの三つの卵は有りません。鶯の夫婦の驚き様は例えようもありませんでした。きっとカラスに襲われたのだと思いました。夫婦は残った子供を抱きしめ、一匹だけでも子供が残ったことを喜びました。
 いつまでも三つの卵を失った悲しみに暮れているわけには行きません。子供は親の悲しみとは関係なく、もっともっとと食べ物を欲しがります。鶯の夫婦は残ったこの子供を立派に育て上げようと話し合い、食べ物を探しに出かけました。一生懸命食べ物を探し、子供を大きくすることにより、鶯の夫婦は三つの卵を失った悲しみを忘れようとしました。 翌日も朝早くから、子供は空腹を訴えて騒ぎ出しました。鶯の夫婦はすぐに起きて餌を探しに出かけました。子供にいくら食べ物を与えても、子供は貪欲に食べ続け、もっともっとと食べ物を欲しがります。仕方なく、鶯の夫婦は僅かな休みを取ることもなく、食べ物を探して飛び回りました。
 鶯の夫婦は、自分たちが想像していた子供と実際の子供との違いに戸惑い続けました。子供との楽しい語らいや、家の掃除をする暇など全くありません。もちろん子供をしつける余裕など全くありません。来る日も来る日も寸暇を惜しんで子供のための食べ物を探し続けました。そのお陰でしょうか、間もなくすると子供は鶯の夫婦より体が大きくなりました。
 天気の悪い日は大変でした。天気が悪いと食べ物を十分に見つけることができません。子供は腹を空かせて、腹を立てて家の中で暴れ回ります。鶯の夫婦に向かっても嘴でつついたり、足でけ飛ばしたりしました。それでも鶯の夫婦はかわいい子供のために我慢して、食べ物を探し続けました。
 この様な、鶯夫婦にとってつらい日々が二ヶ月もたちました。子供は鶯夫婦とは似つきもしない大きさと形になりました。それでも鶯夫婦はこれは自分たちの子供だと我が身に言い聞かせて働き続けました。
 そしてある日、食べ物を探して帰ってみると、家の中は空っぽになっており、どこにも子供の姿はありませんでした。鶯の夫婦は気違いのようになって周囲飛び回り、我が子を探し続けました。捜し続けて結果も空しく家に帰ったときには、辺りはすっかり暗くなっていました。鶯の夫婦は疲れた体を寄せあって、いなくなった子供のことを考え続けました。きっとカラスにやられたのだろうと考えました。いなくなった子供が天国で幸せになってくれることを祈りました。しかし、子供が本当の親とどこかへ飛んでいったとは全く気づきませんでした。
 
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