たあちゃんの砂の犬   須藤 透留
 
 たあちゃんはこの団地に越してきてまだそう日にちがたっていません。周りは知らない人ばかりなので、まだ遊ぶ友達もいません。毎日がとても退屈でした。たあちゃんの好きなテレビもすぐに終わってしまいます。部屋で一人遊びをしてもすぐに飽きてしまいます。お母さんは妹の面倒を見るのに忙しくて、なかなか一緒に遊んでくれません。
 たあちゃんは思い切って外に出てみました。
近くに公園があります。そこでブランコに乗ってみました。一人でブランコをしていても余りおもしろくは有りません。滑り台を滑ってみました。一人で滑り台を滑っていても余りおもしろくは有りません。砂場に五、六人の子供が山を作ったり道を作ったりして、楽しそうにしていました。
 たあちゃんはすぐそばでみんなの遊びを見ていました。たあちゃんもみんなの遊びに加わりたいのです。しかし子供達はちらりとたあちゃんのことを見ただけで、たあちゃんを無視して遊び続けていました。そこでたあちゃんはポケットからプラスチックの人形を取り出して、テレビの番組を真似して、
「えい、やあ」
とみんなに聞こえるように声を出して遊び始めました。しかし子供達はたあちゃんのことには目もくれずに楽しそうに遊び続けています。たあちゃんはつまらないのですぐにプラスチックの人形で遊ぶことを止めました。
 次にたあちゃんは子供達のそばで同じように山を作り出しました。しかしすぐに
「おまえ、じゃまだよ。もっと向こうへ行けよ。」
と、子供達に言われて、作りだした山も壊されてしまいました。仕方なくたあちゃんは砂場の端の方に行って山やトンネルを作ってみましたが、一人で作っても余りおもしろくは有りませんでした。 たあちゃんが砂山をいじっている内に、砂山が何処となく動物の形に似てきました。そこでたあちゃんはその砂山を犬の形にしてみました。たあちゃんの叔父さんお家にいるダンを思いだして作ってみました。
「ダン、おいで」
たあちゃんが呼びかけると、砂の犬はむっくと立ち上がって、たあちゃんの方に向かって歩き出しました。
「ダン、おすわり」
とたあちゃんが言うと、砂の犬は腰を卸してじっとたあちゃんの方を見つめています。
「ダン、おて」
とたあちゃんが言うと、砂の犬は片方の前足をたあちゃんの方に出しました。
 そばで砂遊びをしていた子供達はみんなびっくりしてたあちゃんの周りに集まってきました。
「わあ、犬だ、犬だ、砂の犬だ!砂の犬が動いている!」
子供達は大騒ぎです。その子供達の輪の中にいるたあちゃんは鼻高だかです。はじめは自分一人で砂の犬と遊んでいましたが、
「みんなもダンと一緒にあそばない?」
と言って、子供達を誘って砂の犬と遊び始めました。
 たあちゃんは他の子供達と一緒に楽しく砂の犬と遊んでいました。こ一時間も砂の犬と一緒に遊んだでしょうか。突然砂の犬の形が崩れだし、砂の犬は動かなくなりました。そこでみんなと協力して、水道からおもちゃのバケツで水を取ってきて砂を湿らし、砂の犬の体を治しましたが、もう砂の犬は動きません。
「ダンが死んじゃった、死んじゃったよ。」
子供達はみんな泣きそうでした。
「それじゃあ、お墓、作ろう。」
と言った子供がいました。そこで子供達は砂場の隅に穴を掘って、砂の犬を埋めて、その上に小石を置いて、かわいい手を合わせました。
 その後たあちゃんも仲間に入れて貰って、砂山や道路を作って、日のくれるまで、仲良く遊びました。
 
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