寝ていたお地蔵さん

 突然誰か、耳元でお地蔵さんを呼ぶ声がしました。お地蔵さんが目を開けてみると、真っ青な夏の空と、白い雲、明るく輝く太陽が見えました。

「お地蔵さん、やっと目を覚ましましたね。」耳元でお地蔵さんを呼んでいたのは、野兎の子どもでした。

「おや、おや。野兎君か。何か、私に用かね。それにしても、私は今まで何をしていたんだろう。」

お地蔵さんは不思議そうに、あたりをぐるりと見回してみました。お地蔵さんの周りをぐるりと、背の高い草が取り囲んでいるのが見えるだけでした。

「やだなあ。お地蔵さん。お地蔵さんは、ずっと寝っぱなしだったんだよ。だから、僕がお地蔵さんを起こす役目を引き受けていたんだ。毎日僕はここに来て、お地蔵さんを呼んでいたんだよ。」

「ほう、そうだったのかい。それで、いつ頃から私は寝ていたのかい?」

「僕も良くわからないけれど、僕のおじいさんのその又おじいさんの、ずっと、ずっと前から、お地蔵さんは寝っぱなしだったんだ。」

「ほう、すると何十年もねこんでしまったことになるなあ。」

お地蔵さんはあくびをしながら、体を伸ばすようにして、言いました。兎は不満そうに言いました。

「お地蔵さんが寝てしまってからは、このあたりで病気がはやったり、悪いことが次々と起こって、それは大変なんだ。みんなたいへんに困っているんだ。お地蔵さんに助けて欲しいんだ。それなのに、お地蔵さんは暢気に寝続けているもんだから。」

「おお、そうか、そうか。それは悪かった。それじゃあ、みんなのために、いっちょう働くとするか。」

そう言うと、お地蔵さんは起きあがろうとしました。

「ええい、くそ。体が重くて起きれないわい。兎君、ちょっと手を引っ張ってくれんかね。」 兎は力いっぱいお地蔵さんの手を引っ張ってみましたが、お地蔵さんは起きあがることができませんでした。

「お地蔵さん、ちょっと待ってて。お父さん達を呼んでくるから。」

兎はそう言うと、ぴょんぴょんはねて、どこかへ行ってしましました。一人残されたお地蔵さんは

「やれやれ、本当によく寝たわい。すっきりしたわい。これで後百万年は寝ないでおれるわい。」

と独り言を言いました。

 野兎がたくさん、お地蔵さんを取り囲んで、お地蔵さんを起こそうとしました。力を併せて一生懸命お地蔵さんを起こそうとするのですが、兎達の力ではどうにもできませんでした。噂を聞いて駆けつけた野ネズミ達も、力をかしました。狐や狸達もやってきて手伝いました。しかし、どうしてもお地蔵さんを起こすことができませんでした。みんながが途方にくれていると、たまたま上空を飛んでいた鳶が舞い降りてきて、言いました。

「お地蔵さんを起こすのなら、熊さんに頼むといいよ。熊さんは力持ちだから、きっとお地蔵さんを起こしてくれると思うよ。僕が呼んで来て上げよう。待ってて。」

 鳶は空高く舞い上がると、山の方へ飛んで行ってしまいました。しばらくすると大きな熊が三匹、駆け足でやってきました。

「おおい、どけどけ。お地蔵さんを起こすのなら、俺達に任せておけ。」

そう言うと、三匹の熊達はあっという間にお地蔵さんを起こして、お地蔵さんの座る台座に乗せてしまいました。乗せ終わると、見ていた動物達から一斉に拍手が起こりました。お地蔵さんも

「熊さんや、ありがとう。ありがとう。」

と言いました。取り囲んでいた動物達も

「さすがに、力仕事は、熊さんだ。たいしたもんだ。」

と言って、感心していました。

 お地蔵さんが起きてからは、病気や災害がなくなりました。お地蔵さんが、防いだからでした。動物達は、お地蔵さんを中心にして、仲良く、平和に暮らしました。

 

表紙へ