北風と東風   須藤透留
 
 東風が長い長い旅を終えて或国に帰ってきました。そこにはまだ北風が働いていました。
北風は東風を見つけて言いました。
「やあ、東風さん。久しぶりだね。もう君が帰って来る頃になったのか。」
「やあ、北風さん。お久しぶり。やっと帰ってきましたよ。それにしても北風さん。今年
は君は随分働いたねえ。見渡す限りの深い雪。これじゃあ僕も一生懸命働かないと、この雪
を融かす事が出来ないじゃあないか。」
「ああ、そうだね、東風さん。今年は僕も随分働いたよ。ぼつぼつ引き上げる潮時かな。
僕も北の国が恋しくなったよ。だけど東風さん、君はいいね。君が来るとみんなが喜ぶん
だもの。君が来ると野山の木々は明るい緑の芽を出し、鳥達は嬉しそうに歌い続け、動物
達は元気に駆け回り出す。お日様まで明るく照り輝き出すだろう。それに対して僕はどう
だね。僕がくるとみんな黙り込んでしまうんだ。野山の木々ははっぱを落として嫌だ嫌だ
と言って手を振っているし、鳥や獣達も何処かに隠れて、誰も僕と遊んでくれないいんだ。
お日様まで嫌な顔をして早々と隠れてしまうんだ。」
「それは違うよ、北風さん。君はみんなを休ませるために来ているんだよ。君が来てくれるからみんながゆっくりと休むことが出来るんだ。ちょうど一日の内で夜になるとみんなが休むことが出来るようにね。」
「本当にそうかなあ。まあいいや。僕も北の国が恋しくなってきたところだ。北の国に帰ってひと休みして来るか。」
「そういえば向こうの湖で白鳥達が君を捜していたよ。一緒に北の国へ帰りたいんだって。」
「ああ、そうお。有難う。じゃあ白鳥を誘ってみるか。それじゃあ又いつか会いましょう。さようなら、東風さん。」
「そうね。さようなら、北風さん。」
 北風は北の国へ帰って行きました。その後東風は国中を走り回って、眠っている木々を起こして行きました。積もっている雪を融かしてその下に眠っている草花も起こしました。小鳥たちに呼びかけて歌を歌うように頼みました。
 
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