木こりの源太   須藤 透留
 
 昔々、ある国の山奥の小さな小屋に、源太という木こりが、たった一人きりで住んでいました。源太はとても元気者で、力持ちで、そのうえ働き者でした。天気の良い日はもちろん、雨の日も、風の日も、雪の日も、毎日毎日朝早くから日が暮れるまで、山に入って木を切っていました。一日に何本もの大木を切って、枝をはらい、木材にして、木材商の人に売りました。このため、山の木はどんどん減ってしまい、禿山がどんどん広がっていきました。
 このままですと、山に住む鳥や動物達は食べ物や住むところがなくなってしまい、たいへん困ることになってしまいます。そこで、動物達はみんなで相談して、山の神様のところへ助けてもらいにでかけました。
 「源太がこれ以上木を切らないようにしてください。」
とお願いとくにました。すると山の神様は
「なるほど、君達の言うことはもっともだ。
しかし源太のしていることも悪いことではないし。さてどうしたものだろう。」
と言って、しばらく考えていましたが
「うん、ちょっと源太にはかわいそうなんだが、こうするといいだろう。猿と熊とは私に協力しなさい。」
と言って猿と熊とを呼び寄せました。
 
 ある日、源太が木を切っている時、源太は足を滑らして転んで、足の骨を折ってしまいました。足は激しく痛んでとても歩けません。助けを呼ぼうとしても、深い山のなかです。大声を上げても誰も助けにきてくれません。源太は痛みに耐えれなくて、地面に倒れてしまいました。
 やがて日が暮れて、あたりはだんだん暗くなっていきました。気温も下がってきて、寒さもつらくなってきました。狼の遠吠えが聞こえてきます。いつもでしたら、源太にとって狼など少しも恐くはないのですが、今は痛みで体を思うように動かすことができません。源太は今まで経験したことのないような恐怖と絶望にかられていました。
 夜もだいぶ更けてきました。まん丸な月の光を浴びて猿と熊とが、地面に横たわっている源太のすぐ側まで近づいてきました。源太は息を殺して、身動き一つしないでじっとしていました。猿と熊とはその息がかかってしまうほど、源太のすぐ側までやってきました。「死んでるみたいだね。」
熊が言いました。
「いや、死んではいないよ。まず傷の手当から始めよう。熊くん、しっかりした棒と蔓を見つけてきてくれたまえ。」
 熊の手伝いで、猿は源太の傷をしっかり治療すると、
「これで大丈夫。もう、痛くはならないだろうから、熊君、背負ってやって、連れて帰ってくれないか。」
「ああ、いいよ。じゃあ、背負うの手伝ってよ。気をつけてね。」
「それ、一、二、の三。」
猿は源太を熊の背中に乗せると、先にたって源太の小屋に向かって歩きはじめました。源太はどうしていいのかわかりません。ただ息を凝らして、成り行きに任せるしかありませんでした。熊の背中に背負われて揺られて小屋まで帰りました。
 小屋に着くと、猿と熊とは源太を床に寝かせた後、とどこかへ立ち去りました。源太はほっとして起き上がりましたが、これからどうしたらいいのか全くわかりません。いろいろと思案している内に夜もあけてしまいました。
 そのうち、とんとんと扉を叩いて猿が
「おや、気が付いたんだね。」
と言って入って来ました。源太はとてもびっくりしましたが、昨夜のこともあるので
「昨日はどうもありがとう。本当に助かりました。もう絶対に死ぬと思いました。」
と、御礼を言いました。猿はただにっこり微笑んだだけで、持って来た薬で源太の足を治療を済ますと、おいしそうな木ノ実などの食べ物を置いて、又山の中へ帰っていきました。 猿は翌日も来て源太の足の治療を済ませた後、食べ物を置いて帰っていきました。その翌日も、その翌日も、毎日のように猿は来て源太の世話をしたため、源太は少しずつ歩けるようになりました。
 ある日、源太は猿が食べ物と一緒に、何か種のようなものを置いていったのに気づきました。見ただけでそれが食べ物でないとわっかたので、源太はそれを小屋の回りに蒔いてみました。その後、何日かたちますと、種を蒔いた所に小さな木の芽がたくさんでてきました。それはだんだん大きくなって、山に植えるにはちょうどよい苗に成長しました。源太は不自由な足を引きずりながら、山に入ってはその木の苗を植え続けました。そして源太の足がすっかり治って再び山で木をきれるようになった頃には、まるはだかになっていた野山を緑の木の苗で被いつくしていました。
 それからと言うもの、源太は木を切った後には緑の苗を植えて、その苗の世話も一生懸命しました。そのため源太が木を切った後の野山には、前よりもより美しい森が出来たため、森の小鳥や動物達は大変喜んで、源太の小屋によく遊びにきたとのことです。
 
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