蛙の戦争   須藤 透留
 
 昔、ある森の中に大きな池が有りました。その池にはいろいろな生き物が仲良く暮らしていましたが、あま蛙とひき蛙だけは毎年毎年、喧嘩をしていました。その喧嘩の理由は、どちらの蛙がこの池を支配するかと言う事でした。あま蛙とひき蛙は毎年夏になると池のあちらこちらで、げろげろ、があがあ、大声を上げて、殴り合ったり、とっ組合ったり、蹴飛ばし合ったり、それはそれは大変な騒動を起こしました。
 蛙たちの喧嘩が始まると、池に住む生き物たちはみんな迷惑を被りました。そこであるとき、池に住む鮒たちが集まって、蛙たちの喧嘩を止めさせるにはどうしたら良いかを話し合いました。しかしなかなか良い意見はでませんでした。そこで鮒の長老が
「まずは、あま蛙とひき蛙の指令官に会って、喧嘩を止めるように申し込むことだな。それしか無いだろう。」
と言ったので、鮒達の間で代表を選んで、あま蛙とひき蛙の指令官に会いに行くことになりました。
 鮒の代表があま蛙の指令官に会って言いました。
「蛙さんたちが喧嘩をするから、私たち鮒は安心して生活できません。この池は生き物全てが仲良く生活する所です。喧嘩は絶対に止めてください。」
あま蛙の指令官が答えました。
「この池は私たちあま蛙が支配していたのに、ひき蛙達が侵略してきたのです。私たちあま蛙はこの池の平和と安全を守るために断固ひき蛙をこの池から追い出さなければなりません。私たちあま蛙はこの池を守る使命があります。」
あま蛙の指令官は鮒達の願いを聞き入れませんでした。
 次に鮒の代表がひき蛙の指令官会ってに言いました。
「蛙さんたちが喧嘩をするから、私たち鮒は安心して生活できません。この池は生き物全てが仲良く生活する所です。喧嘩は絶対に止めてください。」
ひき蛙の指令官が答えました。
「この池は私たちあま蛙が支配していたのに、あま蛙達が侵略してきたのです。私たちひき蛙はこの池の平和と安全を守るために断固あま蛙をこの池から追い出さなければなりません。私たちひき蛙はこの池を守る使命があります。」
ひき蛙の指令官も鮒達の願いを聞き入れませんでした。
 そこで鮒達はもう一度集まって、蛙達の喧嘩を止めさせる良い方法は無いものかと考えました。鮒の子どもが言いました。
「この池をあま蛙さんの住む所と、ひき蛙さんの住むところと、二つに分けたらどうなの。二つに分けて、別々に住ませたらどうなの。」鮒の長老が言いました。
「二つに池を分けるのはいい考えだが、どうやって池を二つに分ければいいかだ。そこが一番むずかしいところだよ。」
すると鮒の子どもはすぐに答えました。
「なーに、それ、とても簡単だよ。葦さんに頼めばいいよ。葦さんに池を半分ずつに分けるように生えてもらえばいいんだよ。」
鮒達はこの子どもの意見に従うことになりました。
 そこで鮒達の代表が葦に会って言いました。
「この池を半分ずつに分けるように生えてくれませんか?そうすれば蛙さん達が喧嘩をしなくてすむのですが。」
すると葦は言いました。
「それはおやすい御用です。それじゃあ、さっそく動きましょう。鮒さん達も手伝ってください。」
 池の岸辺に生えていた葦達が池の中央に動きました。鮒達も葦が動いて、池を二つに分けるのを手伝いました。まもなくすると池はあま蛙の住む池と、ひき蛙の住む池と二つに分けられました。あま蛙も、ひき蛙も、池が半分になったことには少しも気付きませんでした。あま蛙も、ひき蛙も、自分達の住む池に相手の蛙がいなくなったので、自分達が喧嘩に勝って、相手を追い出したのだと考えました。
 こうしてあま蛙とひき蛙との喧嘩は納まりました。
 
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