炎のポルカ

 三月の末になると、高原のこの村からも根雪は消えてしまいました。準ちゃんの家の庭の梅の木に、花が咲きだしました。ほかの多くの木々の枝についている芽は、まだ硬い殻を被っていました。枯草が被っている地面には、所々緑の草の芽が出てきていました。時折冷たい東風が、葉の無い木の枝を揺らして、走り去って行きました。

 準ちゃんはお父さんから、焚火を頼まれました。去年の秋、桧の枝払いをしたものが、広い庭の隅に積んでありました。準ちゃんは庭の真ん中で、マッチを擦って、新聞紙に火をつけました。新聞紙がめらめらと燃え出すと、その上に枯れた桧の枝を乗せました。すると白い煙がもくもくと立ち、次にオレンジ色の大きな炎が立ち上がりました。準ちゃんはその様子を何気なく眺めていました。眺めていると、炎がばちばちと調子をつけて、踊りだしました。その側で次の炎が踊りだしました。そしてたちまち、数本の炎が調子をとって踊りだしました。

 準ちゃんはその炎の踊りを眺めていました。小さな炎がパチパチと音をたてて調子をとりました。その調子に合わせて、大きな炎が踊り続けました。大きな炎が踊りながら、準ちゃんに言いました。

「準ちゃん、僕らと踊らないかい。踊ろうよ。楽しいよ。暖かくなるよ」

準ちゃんはびっくりしました。でも気を取り戻して言いました。

「僕は踊りを知らないんだ。」

「僕達が教えるよ。簡単なんだ。それでいて楽しいよ。」

「それ、何という踊り?」

「炎のポルカさ。さあ、こうやって体を左右に揺さぶれば良いだけださ。時々こうやって、体を伸びちじみするのも、いいよ。」

 準ちゃんは言われるままに、体を左右に揺さぶってみました。体を動かすととても楽しくなりました。すぐにリズムに乗ることができました。炎達が踊りながら拍手をしてくれました。

「準ちゃん、じょうず、じょうず。その調子、その調子。」

炎達が調子をとりながら、準ちゃんを誉めました。準ちゃんはますます嬉しくなって、踊り続けました。

 その内に、炎達がだんだん小さくなって、いなくなりました。そこで、準ちゃんの側で踊っていた炎が言いました。

「準ちゃん、木の枝を追加してくれませんか?僕達、木の枝が燃えないと、踊れないんだ。」

「ああ、そうか。枯れ枝が燃えつきちゃったんだね。ちょっと待っててね。」

準ちゃんは枯れ枝を取って来ると、焚火に追加しました。すると又大きな炎が次から次へと立ち上がって、ポルカを踊りだしました。それを見届けると、準ちゃんも負けないで、再び踊り続けました。

 準ちゃんと炎達が踊っているとき、ある炎が準ちゃんに呼びかけました。

「準ちゃん、そこで踊っていないで、僕達の踊りの輪の中に加わらないかい?」

「そんなことをしたら、僕はやけどをしてしまう。僕はここでいいよ。」

「大丈夫だよ。炎のポルカを踊っている限り、やけどはしないよ。心配しないで、ここでみんなと踊ろうよ。」

言われるままに、準ちゃんは踊りながら炎達の方へ近づいて行きました。けれど、驚いたことに、炎に近づいても、準ちゃんは少しも熱く感じませんでした。

「本当だ。大丈夫だ。」

準ちゃんはそう言うと、炎達と手を取り合ったりして、ポルカを踊り続けました。

 その内、又炎達が消え始めました。そこで準ちゃんは又枯れ枝を焚火に加えました。大きな炎が幾つも立ちだしました。その炎達が言いました。

「準ちゃん、枯れ枝を僕達の周りに、ぐるりと輪の形にして燃してくれませんか?そうすれば、大きな踊りの輪ができますから、もっと楽しいですよ。」

そこで準ちゃんはあるったけの枯れ枝でぐるりと輪を作り、それに全部火を移しました。大きな炎の輪ができました。その炎が皆楽しそうに、炎のポルカを踊りだしたり、歌いだしたりしたのですから、それはそれは大賑わいになりました。準ちゃんはその大きな炎達の輪の中心で、楽しくポルカを踊りました。 やがて準ちゃんの周りの炎達が一つ消え、二つ消えして、だんだん少なくなって行きました。

「炎さん、もう燃やす枯れ枝はないよ。どうしよう。」

準ちゃんは踊るのを止めて言いました。

「準ちゃん、踊るのを止めちゃあだめだよ。やけどするから。踊りながら焚火の外に出ていかなくちゃあ、だめだよ。」

あわてて、近くの炎が言いました。

準ちゃんも急いで踊り出して、焚火の外に出て行きました。

「準ちゃん、しょうがないよ。枯れ枝が無くなれば、今日の踊りはこれでおしまいにしましょう。また、枯れ枝が集まったら、ポクカを踊りにあつまりましょう。」

「うん、今日はとてもおもしろかった。又踊ろうね。」

「そうしましょう。準ちゃん、それじゃあ、また。」

そう言うと、炎達はどんどん消えて行きました。後には燃え残りの黒い枯れ枝のはしっこと、白い灰が残っていました。

 

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