どったら山の狸

 昔々、どったら山に一匹の狸が住んでいました。名前をぽんたといいました。ぽんたはには悩みが一つ有りました。それは、ぽんたがまだ上手に、腹鼓をぽんぽこならすことができないことでした。

 ある秋のことです。十五夜の夜に、狸達全員が広場に集まって、腹鼓大会をすることになりました。お腹をぽんぽこ上手に、きれいな音を出す競争でした。ぽんたは困りました。ぽんたが上手にぽんぽこという音を出せないことがみんなに知れてしまいます。

 毎日ぽんたは腹鼓の練習をしました。空気をいっぱい吸い込んで、お腹に力をいれて、お腹を思いきり強くたたきました。けれどぽんたのお腹はぶんぶくと音がするだけで、ほかの狸達のようにぽんぽこという音が出なかったのです。

 ぽんたは、ほかの狸たちに隠れて一生懸命練習をしました。しかしいくら練習をしても、ぽんたのお腹はぶんぶくという音がするだけでした。そこで思いきり強くお腹を叩いてみました。すると、ぶんぶくぶう、ぷうーという音とともに、ぽんたは

「いて、て、て、て。」

と、大声をあげました。ぽんたは苦笑いをしながら、お腹をさすりました。あまり強くお腹を叩いたから、おならがでてしまったのでした。お腹を叩いたところは、赤く腫れ上がっていました。これではもう練習はできません。しかたなく、ぽんたは明日まで練習を休むことにしました。

 十五夜になりました。まん丸で大きな月が広場の上に登ってきていました。ぽんたは、広場のそばの草むらに隠れて広場のようすを見ていました。ぽんたはまだ、上手にぽんぽこと腹鼓を鳴らすことができなかったので、どうしようかと迷っていたのでした。

 ふときがつくと、ぽんたの近くの草むらに誰か潜んでいました。近寄ってみると友達のぺんとでした。ぽんたはぺんとのそばに行き、肩を叩いで言いました。

「ぺんと、君、ここで何をしてるの?」

「ああ、びっくりした。ぽんたか。君こそここで、なにしてるんだい。みんなもう広場に集まっているのに。」

「ちょっと、調子しが悪くてね。」

「へえ、君もそうなんかい。実は、僕もそうなんだ。ぽんぽこと、いい音が出なくてね。みんなにばれると恥ずかしいから、どうしようか迷ってたんだよ。」

「じゃあ、僕一人じゃあなかったんだね。」

「他にものぞいている奴がたくさんいるよ。きっとみんな、いい音が出ない連中なんだろう。みんなで、恥かきゃあ、恥ずかしくないだろう。隠れている連中をみんな呼び出して、参加してみよう。」

 ぽんたとぺんとは、草むらに隠れて広場を見ていた狸達を集めて、広場に出て行きました。そして、めいめい勝手に腹鼓をうちはじめました。その音がぺんぺけ、とんとん、ぶんぶく、といろいろな音が混じっておもしろい合奏になりました。おもしろい合奏となると、ぽんた達は調子にのって、楽しくリズムをとりました。すると、ぽんた達の周囲で腹鼓を打っていた狸達も、ぽんた達に加わって楽しく腹鼓を打ち出しました。ついに広場中の狸達の腹鼓の大合奏となりました。夜中ぽんぽこ、ぺんぺけ、ぷんぷく、とんとん、ぶんぶくと、楽しい腹鼓の合奏が続きました。

 

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